針灸治療あれこれ

 

1鍼灸治療の始まり

 恐らくうーんと昔 例えば8000年とか1万年くらい前から 我々の祖先は知っていたのではないか 痛い所に手を当てる これを「手当て」するという  狩猟や漁労或いは牧畜や農作業で疲れた体を横たえる 化膿した傷口が茨に引っかかり血膿がでたら痛みがとれた 腰の傷む箇所の下に小石がある いつもなら痛いのに小石の刺激で腰の痛みが軽くなる 胃の調子が悪い 焚き火の火が撥ねて脛に飛ぶ あ 熱いと思ったら胃が楽になった この様な経験を何千年と繰り返し「手当て」に換えて石の類を割り切片を研ぎ上げ小刀のようにしてこれで腫れ物を切る 体に刺さった異物を取り除く これを_石(へんせき)と呼ぶ 竹や木か骨の針を作り体に刺す 焚き火の燃えさしで痛い所を焼いてみる 或いは枯れ草を揉んで痛む所に置き 火を付ける 痛みが軽くなる 経験が積み重なり技術となり専業化する 中国でいつごろか具体化されたであろうか 確証は無いが針治療については 針、縫い針、釣り針が遺跡より発見されれば、その類の技術はあったと勝手に認定する 例えば 中国 新石器時代の古い遺跡 仰韶文化(約6000年前から---3500年)の半坡(はんぱ)遺跡からは縫い針、釣り針の類が発掘され 土器に魚面の人間或いは人間顔の魚の額に文様があり刺青だといわれている 史記によれば五帝の舜の章に(伝説の世界ですが)五刑(五つの刑罰)の第一に墨(いれずみ)の罰がでている  

日本では三内丸山遺跡(約6000年前から3000年位前)から骨製の針、縫い針、釣り針が発見されている(ので当然 その種の技術はあったであろう)傍証として述べれば縄文土器の土偶の幾つかは刺青らしき文様を顔や腕に入れている 或いは 少し新しい話ですが魏志の倭人伝には倭人は魔よけに刺青をしていたと記す もっともこの倭人が日本列島の住人かどうかは大いに疑問です
日本では中国の技術知識が百済を経て仏教伝来(538年) 医、易、暦博士の招来(553年) 紙と墨の伝来(610年)などとありますから 6世紀中ごろには鍼灸知識も断片的に伝わり遣隋使(607年)以降には系統的に伝えられ漢方として発展したものと思います

1991年にアルプスの山中で今から5100年ほど前のミイラが発見された 彼は腰の付近とくるぶしの付近に刺青をしていた その場所からして人や獣を脅すというより治療目的ではないかとの説がある 鍼灸師(私もその端くれですが)の観察によれば膀胱系のつぼに相当するものがありミイラは腰に疾患が有ったようだ これをとらえて鍼灸は西から中国に伝わったという学者もいるようだ おいおい待ってくれ ミイラは腰に火打石と火口らしい物を腰に下げていたようだ では火の起こし方も西からか??? そうではない この手の事は上にも述べたように世界同時多発なのです 釣り針の先がJの字なのはどこからか伝わったのであろうか ある日ある時ある所で誰かさん達がああ------あと思いついたのと同様です 灸治療については物証に乏しいが絹の道のもう一本北 スキタイ(族)の道では灸のあとのあるミイラが発見されるらしい 灸跡など研究する学者がいないのでこの点の報告書を見た事がない。知っている方は教えてください


2『素問』という古い書物によれば 
 

石(へんせき)は東方より 毒薬は西方より 灸_(きゅうへい)は北方より 九鍼(きゅうしん)は南方より 導引按_(どういんあんきょう)は中央より出ず とある これを信じれば針は南方つまり長江方面から 灸は蒙古方面からであろうか _石とは石を薄く割った石のメスのような物 これで腫れ物を切ったり突いたりしたのであろう 針よりも_石の方が先にあったようです 青銅の鋳造が発見され(約3500年以上前か) 鉄の鋳造が始まり(3千年位前) 中国では戦国時代(約2300年位前から)に鉄器の鋤や鍬を使用して農業生産力が著しく向上したと言われる 殷の時代には金属製の針があったようです 別のページで述べた扁鵲は2500年ほど前の鍼灸師だが弟子に針を砥がせ云々との記述があるので既に金属製の針を使っていたと思われる

前漢(2200年位前)の貴人の墓から金銀針が発見されている 銀針は腐食しており全体の形は輪からが金針は3種4本 全長約6.5センチとありますから家庭で使うねじ回しの先の部分ほどもありこの針で治療された患者さんはさぞかし効いた事と思います 余談ながら私も20数年前 堺市で日本人最後の中医学による脈診のできるという針の先生に腰痛を治療してもらった時の針が長さ20センチ位太さは焼き鳥の竹串ほどもありました これを足の三里から下にむけて前脛骨筋の中をずんずんと打ってゆく もう少しやって欲しいようなすぐ止めて欲しいような強烈な針感でした 北京中医医院でも金針治療に立ち合わせてもらいましたが(王楽亭の金針治療の流れ)これは長さ30センチほど太さ火箸ほどの金針を肘の下から上腕に向け皮膚と筋肉の間をずんずんと打ち進めてゆく強烈なものでした 女の患者さんは割合けろりとしていたのが印象的でした 


3 針のいろいろ

その1:針という字について
ここにあるハローページのはり灸のページを開くとそう9割の店がはり灸のはりの字を鍼としています 残り1割が針かはりを使っています つまり鍼と針がどちらも通用しています さて現在の中国ではどうでしょう ずばり“針”です 簡体字という言葉を聞きませんか 民衆の文盲対策の一つとして漢字の簡略化が図られ1935年には民国政府は第一次批簡体字表を公布した 戦後中国政府は政策として促進し簡体字案として結実した 1965年 簡体字総表を公布し その為、簡体字は国家公認の文字として法律、公文書、学校の教科書や書籍あるいは新聞雑誌などに用いられています ここにある例は教科書に用いられている文字です もっとも偏の金の文字も簡体字の影響を受け五画ですが日本の漢和辞典では八画の金という文字です 世間
ではこの簡体字がどのように使われているかその例を見て見ましょう

この写真は簡体字を写すために取った写真ではないので文字を横切って木の枝が走っていますがこれは安大夫が研修していた北京中医医院の入り口です(1998年当時) 鍼灸科の文字を強調するため 文字に焦点をあてましたが はて安大夫は何処に写っているでしょうか 分かりますか

その2:針の種類のいろいろ
鍼灸治療院のホームページを見ていて特徴的な事は 針は痛くないかとの患者さんの質問に多くの先生方が痛くないと解説されている事です その方法として『髪の毛よりやや太目の針で瞬時にして刺しますのでチクリとも感じません云々---』とあります 一部の先生は写真を添えて説明されています 写真から判断するとこの業界では 1寸の0番針 或いは 1寸の1番針の様です 1寸とは長さで穂(体に刺入する部分)の長さが3センチ 0番とは針の太さが0.14ミリ、1番とは0.16ミリの針のことです(以下番手が1番上がるごとに太さが0.2ミリ増えます) 髪の毛は日本人で100−150ミクロン程といわれますから0.1−0.15ミリ位です そうすると0番か1番は確かに髪の毛よりやや太い程度でしょう さて名人はこの針で治療の目的を達するのですが小生の様なやぶ針灸師は小錦やボブサップが来た時はどの様に治療するのか とまどうのです 小錦は極端にしても男性で労働やスポーツをしっかりやった方は筋骨豊かですし中年過ぎのご婦人方のほんの一部には脂身豊かな方がいらして3センチ程では患部に針が届かないかもしれません そこで日本針は最低限5種類を用意しています 下手な写真は日本針です 右端がマッチ棒 その左隣が1寸の1番です 順に寸3の1番(長さ1寸3分で太さ0.16ミリ) 寸6の2番 寸6の3番 2寸5番(穂6センチ太さ0.24ミリ)です 一般的ではありませんがそれ以上使い捨てで2寸の10番くらいまで針はあります もっとも日本の針灸治療は玄妙で必ず局所に針を打つという療法だけではないのです 例えば出痔(肛門から痔が出てしまう)の治療に必ずしも長強といって肛門と尾_骨の間のつぼに針を打つ必要は無く百会といって頭のてっぺんにつぼをとっても良いし二白といって手首の内側からひじに向かって上3分の1のところにつぼをとっても又宜しいのです 従って長さと太さを気にしている小生が未熟なのでしょう 小生の手技はちくりともしないことよりも針を打つと最も好ましい事は患部の痛みがすぐ止まる 或いはしびれるとか腫れる感じがする又は脱力感が起きる或いは重だるい様な感じを重んじます その結果痛みが取れる様な治療を心がけています この感覚を始めて針治療受ける患者さんは『痛い』としか表現できないので針治療は痛いものとの誤解をされてしまうのです この感覚(針感、ひびきとか得気とよびます)とたまに痛点を刺す痛みとを感じ分けてもらうため 痛いときは痛いとひびきが強い時は強いと声を出して指示して貰う事を確認するのが治療一回目の大切な打ち合わせ事項です 今風の言葉にすればインフォームド コンセントの一部かもしれません この『ひびき』と痛みを感じ分けられたら もう弘鍼灸亭は患者さんの天国です 特に出産の経験あるご婦人は『陣痛の痛みにくらべたら』と笑うほどです 男性も若い女性もたまにチクリとしてもその後すぐ楽になるという事を体が学習します そうなると不必要に体が緊張しませんから針が楽に体に入ります もう怖くありません 最初は打つ針の本数を数え早く抜く時間が来ないかと時計を盗み見ていた患者さんがすやすや眠ってしまう こうなれば患者初段です 患者高段者になると調子がおかしくなるとひどくなる前に治療にきます 名人は三ヶ月に一度とか定期的に手入れをします  さて日本針の話から少し横道に入りましたが 上記日本針の他 次の様な中国針を用意して小錦やボブサップが来た時に供えています
写真の一番上はマッチ棒です 以下下に1 長さ(穂)1.3センチ太さ0.25ミリ(日本の番手で5番と6番の間) 、2 長さ2.5センチ太さ0.25ミリ、3 長さ2.5センチ太さ0.3ミリ(8番相当) 4 長さ4センチ太さ0.25ミリ 5 長さ4センチ太さ0.3ミリ 6 長さ5センチ太さ0.25ミリ 7 長さ5センチ太さ0.3ミリ 8 長さ6センチ太さ0.3ミリ 9 長さ5センチ太さ0.35ミリ 10 長さ7.5センチ太さ0.3ミリです 11 以下4針は特殊針です 特に11番目は 火針(かしん)と呼んで穂先をアルコールランプなどで真っ赤に熱し局所に打ちます 原因不明の痛み、かゆみ、潰瘍、リュウマチ等に驚異的に効きます 左横の針は長さ10センチ太さ0.4ミリです この針だけはまだ患者さんに打ったことがありません 小錦、ボブサップ待ちです もっとも随時来てくれるようなら 特注でもう少し長い針が必要かもしれません

その3: 薬について
中医学(中国の伝統医学に基づく現代医学)でも漢方或いは東洋医学でも本来は針、灸、薬は治療に際して三位一体なのです 日本ではいろいろ事情があって診断と治療は医師、調剤は薬剤師と職能が別れましたが、鍼灸師は薬も使えて一人前なのです 闇で漢方薬を処方すると考えているのではありません 医食同源という素晴らしい言葉を思い出しましょう 体の冷えやすい方はにんにく、唐辛子、生姜を 体の熱しやすい方はごぼう、大根(生),胡瓜、茄子、緑茶を常用する 夏はミネラルウォーターの代わりに麦茶を常飲すれば胃を労わり肌も美しくします 美肌のためコラーゲンとかに高いサプリメントを買わなくてもお近くの韓国食品店で豚耳やトン足を刻んで食べればオーケーという風にです 昼のみのさんのこれ良さそうを見て似たような物を食べるのも良いでしょう それも難しいという横着な方は最後まで読んで下さったお礼に一言 『笑いましょう』笑えなくても作り笑いでもよいから『笑いましょう』免疫力が上がって長生きできます

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